小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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時世の粧い

サル知恵

2021年05月31日

ゴールデンウィークが終わった頃から、我が家にサルが侵入している。ある日、庭に置いていたサンダルがいつもの位置から離れたところにあり、風のせいだろうかと訝った。ところが来る日も来る日も揃えたサンダルが乱れるのである。おまけに、植木鉢が倒され、庭木の枝が折れていることに気づいて初めて、サルの侵入を疑った。

数日経った休日、ドシンと音がしたので庭を見たところ、テラスの屋根にいるサルをついに見つけた。そのまま屋根伝いに逃げたのだが、屋根は凹んでしまい、被害が拡がってきた。そういえば、診療玄関や自宅の石畳でミカンを食べた跡があったことを思い出し、来院する子どもたちに危害を加える恐れもあると判断、市役所に対策をお願いした。

今、庭の隅っこに市役所と猟友会の方にお世話をいただき、檻を置いている。中にサルが好きそうなバナナやリンゴを入れてくれた。しかし、何日経っても食べようとせず、相変わらずサンダルをもてあそぶし、散水用のホースも触った形跡がある。そこで、サンダルとホースの先を檻の中に入れてみた。ところが、それからはサンダルもホースも触らなくなった。米粒や梅の実も盛りだくさんに用意したのに、一度見かけたときには、檻に目もくれず立ち去った。

その後、庭ではなく玄関でサツキの花を食べているところを見かけた。そばの植木を折るし、あとで見たら、クルマのボンネットや屋根に足跡が無数にあった。そして、クルマのそばに置いた超音波による動物撃退機もケーブルを外してしまい、庭も玄関周りも縦横無尽の勢いで乱しているのである。まるで、我が家がサルの館になってしまった如くである。

この半月あまり、庭を見るたび、玄関を見るたびに、思い通りにならない口惜しさを抱いてしまう。また、侵入していないかと見ることが朝起きてからの日課になってしまった。扉も恐る恐る開けている。サルがどこかに去ってほしい、檻に入ってほしいと、どれだけ思い続けても狼藉は収まらない。本当にしたい放題して、こちらの被害感情が高まる毎日が続くなかで、ふと、こんなに勝手をしている動物なのに、衣食住どれも人間に及ばないではないか、本は読めないし文章も創作できないではないかなどと、人間よりは劣等動物だという思いが頭をよぎった。そして、それと同時に、檻に餌などを入れたり、超音波による撃退機を備えたりすることは、それこそサルにも劣る「サル知恵」だと思ったのである。

しかし、これらの思いは、すぐさま打ち消した。やはり、たとえ人間ではない動物に対して、当たり前ながら優越意識など抱いてはいけない。いや、人間は野生ではなくなっているので、比べるようなことではない。檻に入らないからと言って、自虐的にサル知恵以下だとしたのも、これまでの平穏な生活をかき乱された末の思いである。

以上、思い通りにならないことがきっかけで、劣等動物などと優越意識を抱いたことを反省しているところである。いくら被害を受けても、優劣に結びつけてはいけない。サル知恵は、広辞苑を引くと、浅はかな知恵、とある。普段使わないサル知恵という言葉。この言葉自体が優越感そのものであることに気がついた。こんな言葉を使っているうちは、サルの知恵にはかなわないと思いながら、解決することの遠くないことを念じる毎日である。