小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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時世の粧い

居心地よさ

2018年12月09日

見る、聴く、匂う、触れる、味わう、の五感のいずれかが刺激されると、さまざまな感情が沸き起こるが、その気分には、心地よいものから不快なものまで様ざまだ。ドライブのときに発せられるエンジン音は、どちらかというと騒音に分類されるけれど、私の聴覚には心地よく響く。かつて、若気の至りで、音をじかに聞きたいがために、屋根のないロードスターを所有したものである。当時、心地よさは、音とともにやって来ると思っていた。

私の住む紀州には山道が多い。その山道をドライブしていた、つい先だってのこと。上りの勾配がややきつい場所で、アクセルペダルを踏んでエンジン回転を増やす場面になった。当然、音は大きくなり、いつものように高回転音に浸っていたちょうどその時、やや強くなった加速力の存在を身体全体で感じたのだった。それは、身体に触れる座席と指でつかむステアリングを通して感じたのだと思う。まるで、クルマと身体がくっついてしまい、どこまでがクルマで、どこまでが身体かがわからない、つまり、ドライブするというより、身体が動くという感覚になった。しかも音の大きさが動きに連動している。そう感じたと同時に、ステアリングを握る喜びでいっぱいになったのである。もう、この時間がずっと続いて終わらないで欲しいという気分であった。これまでのドライブで得たように、音だけが楽しみを提供してくれるのではなかった。まるで、音の変化と速度の変化が一体化して、今ここに在ることを際立たせてくれたのである。

そんな瞬間をかき消すように、山道はすぐにカーブする。カーブでは、加速力が遠心力に取って代わる。ここでクルマは、遠心力を吸収してしまった如くであった。すなわち、道に沿って曲げる労力が要らないと思えるほどであり、その代わりに、次々に現れる季節の木々の様子を楽しませてくれた。

聴覚を意識して始めたドライブ。しかし、それだけではなく、触覚、視覚の存在も相まってドライブがあることを改めて気づかせてくれた。望外に、クルマが至福の時を用意してくれたひと時だったのである。クルマはもちろんのこと、身の回りには、五感の在り様を刺激して居心地をよくさせるものがある。そのようなものとの出会いを大切にしようと思うことを、このところのドライブで学んだ。