小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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診療の中で

感染と隣り合わせて

2024年01月07日

天災は忘れたころにやってくる。寺田寅彦のこの言葉が、元日に能登半島地震が起きたときに浮かんだ。しかし、しばらく前から群発地震が続いていた地域であり、当地の人たちは、忘れていたわけではないだろうということなど、いくつもの思いが交じり、テレビにくぎ付けになった。地震で亡くなられた多くの人のご冥福をお祈りし、まだ行方不明の人々の早い救出を念じる毎日である。このような年の初め、毎年開催される箱根駅伝の観戦は、例年のように走る人の熱を受け取れないまま終わった。

ここにきて、被災して体育館などで不自由な生活を送っている人たちの中に、新型コロナ感染症に罹った人がいるというニュースがあった。ところ構わず、感染症は襲ってくる。劣悪な環境で生活していたらなお更である。それにしてもコロナ禍の3年余、感染の構図が激変した。インフルエンザが3年間ほとんど流行しないまま過ぎたと思ったら、昨年末に全国で例年より早く大流行している。ヘルパンギーナが夏前にいつもより流行し、プール熱が寒くなってから多くなった。溶連菌感染も多いと聞いた。これに関連するのかわからないのだが、川崎病に罹るこどもが多くなったようだ。よくいわれるように、コロナ禍で外出を控え、マスクをして、手洗いを励行するなどのことが、ひとに感染して活発になるウイルスの動態に変化を与えたのだろう。そして、以前のように外出し、マスクを外した結果が、感染が増えているいまの事態と関連があると思われる。しかし、いつも通りではない感染様式がいつまで続くのかは、本当にわからない。

一般に感染症は忌み嫌われる歴史を辿ってきた。昔は不治の病といわれた結核など、感染すると致命的な転帰をとることが多かったから、当然のことなのかも知れない。しかし、感染の効用にも目を向けておきたい。小児科では以前から「六づくし」という言葉がある。これは、こどもは生後6ヶ月から6歳まで60回熱を出すものなのですと、発熱を繰り返して不安になる親御さんに説く言葉である。事程左様に、こどもは感染を繰り返すものである。特に、保育園に通うこどもたちは、そうでないこどもたちより数多く熱を出す。すなわち、お互いに感染をし合っているのである。そして、繰り返し感染したことで抵抗力がつき、ほとんどのこどもたちは小学校入学して間もなくすると、うそのように風邪を引かなくなる。また、保育園でより多く感染を繰り返したこどもたちが成人になると、ある種の感染を免れるという成績があるという。

目下、インフルエンザがいつにも増して流行していることなど、コロナ禍を経て、感染の機会が減り、ひとの免疫が脆弱になったことと無関係ではなさそうだ。コロナ禍がなければ、普段の生活を続け、普段の感染を繰り返して免疫を保っていただろう。とはいえ、積極的に己を感染させることは戒めなければならない。適度に、これがむずかしいのだが、感染を繰り返すことが、身体の防御機構をかく乱させ、引いては抵抗力を増すことにつながるようなのだ。

以上、微生物とひととは、おそらく人類始まって以来、感染という形で関係を続けている。見方を変えれば、生き抜くために絶妙なバランスをとっていると思うのである。被災地のように劣悪な環境は、病原体優位になりバランスが取れず、感染を憎悪させることは明らかである。そのうえ、被災した人たちの免疫力もコロナ禍の3年で弱くなっていることが考えられる。また、災害関連死のうち、気管支炎や肺炎など感染症による割合が3割を超えているという。速やかに復興されることを願ってやまない。