診療の中で
はしか
2023年08月05日
目下NHKで放送されている朝ドラ、その主人公の娘が2歳の誕生日を前にして、はしかに罹り、発症してたった3日で天に召された。事程左様に、はしかは重い病気であり、戦後の1947年には、年間2万1000人のこどもが亡くなっている。さらに昔、江戸時代末期には、江戸だけで24万人が亡くなったようだ。朝ドラの主人公が活躍する明治期も、同じような転帰があったと推測する。
このはしかは、戦後食料の確保や衛生状態の改善などによって、勢いがおとろえ、昭和30年代初頭には、死亡者が1000人をきるほどに減った。そして、ワクチンが接種されるようになってからは、さらに感染者が減って今に至っている。それでも、20世紀末に沖縄で流行し、今世紀に入って、東京の有名大学でも流行したことなど、撲滅には至っていない。
意外なことに日本では、今世紀になってから、はしかの正確な統計が行われるようになったようだ。道理で、私は1995年の冬、約1ヶ月の間に27名のはしか患者を診断した際に、報告はしたものの、取り立てて調査らしきものはされなかった。それが、ひと昔前に当院で2名のはしか患者を診断した際に、公的機関で詳しく聞き取りをされたのであった。1995年に多くのはしかに遭遇した当時、はしかの抗体価が、罹ってからの日数に応じて段々と上がったことを確かめたことを思い出す。
現在でも、はしかは、感染して年間20-80人のこどもが亡くなっているから、決して侮れない病気である。それにしても、ドラマを見ていると、医療についての考証がおろそかにされているのではないだろうかと、時々思うのである。この度も、医師が往診をして、布団に臥せているこどもの横で診察するシーンがあった。医師役の、あの診察の進め方で、はしかと診断できるのだろうか。もちろん、いまと違って大はやりしていただろうから、視診だけでわからなくはないとは思う。厳しい言い方だが、医療者もドラマを見ているという視点がないような気がするのである。とはいっても、1,2年前、主人公が軽度認知障害を患ったドラマを見た際には、なかなか見応えがあったから、すべてそうなのではないのだろう。いや、時代考証が、医療の分野ではむずかしいのかも知れないと、私自身、はしかを診断したことを思い出しつつドラマにはまっている。