小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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診療の中で

肘内障

2020年10月12日

小児には、入院治療を必要とする病気から、医院で治療できる病気まで様々にあることは言うまでもない。その中で、川崎病は、発熱、頸部のリンパ節腫脹、眼の充血などを主症状とする症候群で、のちに心臓血管に冠動脈瘤を生じさせることがあるため、出来るだけ早いうちから治療を行わなければならない。私のような開業医の立場では、疑いを持てば症状が出揃う前から病院に紹介することが肝要である。

また、肘の靭帯から骨がはずれかかる肘内障にしばしば遭遇する。主に、手を引っ張られたことにより発症し、子どもは痛がって腕を動かさなくなる。しかし、治療、すなわち整復をすると、泣きわめいていたのが急に穏やかになり、その場で遊び始め、治ったことがはっきりとわかるのである。肘内障は、川崎病とは違って、開業医が診断し治療することが出来て、しかも、すぐさま治る病気である。

この2つの病気を診断することに共通しているのは、開業医としての役目を果たしたという充実感が殊の外強いということである。前者の川崎病は、診断が手遅れになると不利益が測り知れなくなる。そのため、診断に臨む際の「緊張」が、病院から返事をもらった後の「弛緩」へ変わるという殊更得がたい経験を持つことになるのである。後者の肘内障では、症状が急激に消失し、もとの元気な姿を目の当たりにする。その痛みも何もなく普通に遊んでいることが愛おしく感じ、まるで、珠玉のひと時が診察室に用意されるが如くである。

さて、その肘内障を近ごろ治療してから、ある想念が浮かんだ。それは、古希を迎えた開業医には、どのような仕事が相応しいかということを際立たせようと思ったのである。思えば私は、仕事を徐々に縮小させてきた。すなわち、病院に治療を委ねることが早くなり、しかも多くなったように思う。開業当初は、心不全を起こした患者さんを往診しながら治療した。それは、開業する直前まで勤務していた病院で行っていたことを、場所を違えて行ったに過ぎなかった。しかし、私が昼も夜も仕事をする体力がなくなったことなどを理由として、早めに病院に紹介するようになったのである。それは、適材適所ということなのだろうと思う。おそらく、これは年を取るにしたがって重みを増す言葉にちがいない。

肘内障を患った子どもの元気になった姿に象徴される診療の在り方が今の私に相応しいとつくづく思う。診療に気を抜ける疾患などない。しかし、一人が何もかも診療できるわけではないことは自明のことである。確実に年を重ねるなかで、改めて領分をわきまえたいと思う次第である。