小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

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熊野市で

景観と利用

2025年01月09日

我が家から国道を南に進むと、吉野熊野国立公園に指定された七里御浜が県境まで約20キロにわたって続く。外海が普段はおとなしく波を打つ。ただ漁港にはなり得ず、寿司屋は勝浦などまで仕入れに行くと聞いた。また、少なくなったとはいえ、御浜小石は砂利浜に混じって見られる。そして、松の群生。こどもの頃、私は松林の中で野球をした。残念ながら松枯れによってその本数は激減してしまった。斯様に少しずつ様相は変化するものの、海の青さ、小石の白、松の緑の彩りは変わらない。国立公園と改まるまでもなく、歴史的景観を形作る自然がここに在る。

あ?何だこれは?取り返しがつかないではないか、と嘆息をもらしたのが30年くらい前だった。久々に見た御浜には、道路に隣接して、50-100メートルくらいの長さを占有したヤシの木が林立していた。以下に、私の淡い、不確かかも知れない記憶をたどって記す。すなわち、当時ヤシの木を植えたことについて、県職員がここにハワイをイメージして、七里御浜に別の景色を提供したかったと、何かで述べていた。ハワイ?私が嘆息をもらしたのは、地方には地方の歴史的景観があり、それをよしとして国立公園に指定するのだろうと、漠然と思っていたからである。ヤシの木は、当地の歴史にそぐわない。

さて、国立公園に関係して、自然公園法という法律が作られている。そこには、自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図る(以下略)と書かれている。このような文言があれば、ハワイをイメージして利用を増進することはたやすいことなのかも知れない。実際、法律に則ってヤシの木を植えたと思われる。ただ、国が管理する国立公園の整備陣頭指揮を、県職員が進めたことに整合性があったのかどうか、私にはわからないまま、いまに至る。

いま、このヤシの木を植えた個所は、七里御浜ふれあいビーチと称されているようだ。インターネットには、「まるでハワイな気分を楽しめる、海沿いの映えスポット」と書かれているサイトを始めとして、この個所を紹介するいくつものサイトがあり、多くの人がここで過ごしている様子がわかる。「歌は世につれ、世は歌につれ」。人の意向で、世の中は変わる。七里御浜で触れあい楽しむことも変わってきている。私は、時代が変わることに寛容であるつもりで禄を食んできた。そして、金子みすゞの、みんなちがって、みんないい、に共感を覚えた。しかし、どうも私には寛容さがないのかも知れないと思うこともある。というのも、何年経っても、自分を赦そうとしても、「七里御浜にヤシの木」は、私には、寿司にガーリックシュリンプはよく合うと言われたような気分が拭えないからである。

この気分は私の懐古ばかりではあるまい。これまで、私はここに一度も足を踏み入れていない。