小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

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音のこと

音の起源

2014年10月30日

ベートーベンのピアノ・ソナタ第14番、通称月光ソナタの第3楽章を弾いていた時のことである。上行旋律に伴って、3度間隔で重ねられた和音が転回を繰り返す。その在り方を覚えると、先にどんどん進むことが出来ることに気がついた。いや、覚えるというより、音符が書かれた通りに弾くことは、自然の成り行きであるように、指が構えてくれる、と言ったところか。むずかしい曲にもかかわらず、弾き通せたことから、あることを感じて連想した。

動物としての人間が進化して、ものを考えるようになったのは十万年も前のことだろうか。そんな昔に、どういう精神活動をしていたのかを解明するための記録は発見されていない、といわれている。その後、人類最初の芸術の痕跡としてラスコー洞窟の壁画が発見されたことは周知のことである。

後世にまで残る壁画とちがって、同じ芸術でも、音楽はその場で消えてなくなる。だから、ベートーベンはどのようにピアノを弾いていたのか、ということはもちろん、もっとさかのぼって、洞窟に壁画を描いていた太古の昔に、人はどのようにして音楽を奏で始めたのか、ということは知る由もない。しかし、消えてなくなった人類最初の音楽をベートーベンの曲は私に連想させた。

これは勝手な想像だが、ベートーベンは、メロディとは何か、リズムとは何かと問い続けた末に、太古の昔まで辿っていったのではないか。創造物は単純なものから始まる、ということに帰結し、音楽の原点を意識した上で昇華させたのではないか。創造を始めた原点につながる音楽だから、私の指も馴染んだのではないか。そんなことに思いを馳せた。ピアニストのラルス・フォークトが、ベートーベンの音楽は時代を超越していて、ワーグナーやシェーンベルクはもちろん、現代音楽まで先取りしている、と述べている。この先取りしているということは、私が想像した、音楽の原点を辿ったからこその考えで、それだから時代を超越できるのではないか、と思うのだ。

最初のクラシック音楽として多くの人が親しんで聴く運命交響曲。私も子どもの頃に、父から買ってもらったマルケヴィッチが振った運命が入門曲だった。この曲も太古の昔を掘り起こさせて、自分のルーツを確認させてくれるから、多くの人が定番のようにして聴くのではないか、と思いは尽きない。

ところが、運命を始めとした中期に作られた曲は、重たく感じて最近はあまり聴きたくない。それは、人間のルーツ、本性のようなものは、実はそっと隠しておいて明らかにされたくないということで、なかなか聴く態勢にならないのかも知れない、と愚考している。

身過ぎ世過ぎの三十有余年、ひねもす心音を聴取す。生来の音キチなるが故に此は悦びなり。されど、本意はピアノ音、エンジン音ばかりを傍らにと願ふものなり。

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